「SAF航空燃料はCO2削減につながる」と聞いても、飛行機が燃料を燃やして飛ぶことに変わりはないのに、なぜ排出量を抑えられるのか不思議に感じますよね。
結論からいうと、SAFは燃焼時だけではなく、原料の調達から製造、輸送、使用までを含めたライフサイクル全体でCO2排出量を抑える考え方の燃料です。
廃食油や植物、木くず、回収したCO2などを活用できる一方で、原料や製造方法によって削減できる量は変わるため、「SAFならすべて同じように環境に配慮できる」とは限りません。
この記事では、SAFがなぜCO2削減につながるとされるのかを、炭素の循環や原料、製造の仕組みからやさしく解説します。
既存の航空機で使いやすい理由や、普及に向けて残る課題もわかるので、ニュースで見かけるSAFを自分の言葉で理解したい方は、ぜひ続きを読んでみてください。
この記事でわかること
- SAFがライフサイクル全体でCO2排出量を抑えられる仕組み
- 廃食油や植物、回収したCO2などからSAFをつくる方法
- SAFのCO2削減率が原料や製造方法によって異なる理由
- 既存設備を活用しやすい特徴と、価格・生産量・原料確保の課題
SAFがCO2削減につながるのは炭素を循環利用してライフサイクル排出量を抑えられるため

SAF航空燃料がCO2削減につながるとされる理由は、燃料に含まれる炭素を新たに地下から取り出すのではなく、すでに大気中にある炭素を活用する考え方にあります。
飛行中にCO2が発生する点は従来の航空燃料と同じですが、原料の調達から製造、輸送、燃焼までを通して見た排出量を抑えられる可能性があることが大きな違いです。
SAFは持続可能な原料から作られる航空燃料
SAFは「持続可能な航空燃料」を意味する呼び方で、従来の石油由来の航空燃料に代わる選択肢として注目されています。
一般的な航空燃料は、地下にある原油を採掘し、精製して作られます。
これに対してSAFは、資源を有効活用できる原料や、大気中の炭素を利用する仕組みなどをもとに製造されます。
原料そのものだけでなく、作る過程で環境への負担をできるだけ小さくすることが、SAFに求められる大切な条件です。
つまり、単に従来とは違う原料を使えばよいのではなく、安定した供給や自然環境への配慮も含めて「持続可能か」を確認する必要があります。
| 項目 | 従来の航空燃料 | SAF |
|---|---|---|
| 主な炭素の由来 | 地下の化石資源 | 循環利用できる炭素など |
| 考え方 | 地中の炭素を大気中へ出す | 大気中にあった炭素を活用する |
| 環境負荷の評価 | 燃焼時の排出が中心になりやすい | 原料調達から燃焼までを確認する |
燃焼時にCO2が出ても大気中の炭素を循環させる点が異なる
「SAFなら飛行機からCO2が出ない」と思われることがありますが、これは正確ではありません。
SAFを使った場合でも、航空機のエンジンで燃料を燃やせばCO2は発生します。
ただし、原料によっては、その炭素が植物の成長過程で大気から取り込まれたものや、すでに大気中に存在していたCO2を活用したものである場合があります。
そのため、燃焼時にCO2として大気へ戻っても、新たに地中の炭素を追加する量を抑えやすいという考え方になります。
イメージとしては、従来の航空燃料が「長い間、地中にあった炭素を大気へ出す」仕組みなのに対し、SAFは「すでに大気中にあった炭素をできるだけ循環させる」仕組みです。
もちろん、原料を集めたり燃料を製造したりする際には、電力や熱、輸送などによるCO2排出が生じます。
だからこそ、燃焼時だけを見て判断するのではなく、燃料になるまでの工程も含めて考えることが欠かせません。
削減効果は原料調達から燃焼までのライフサイクル全体で評価する
SAFのCO2削減効果は、「ライフサイクル」という考え方で評価されます。
ライフサイクルとは、原料を用意してから航空機で燃やすまでの一連の流れのことです。
- 原料を集める
- 原料を運ぶ
- 燃料へ加工する
- 空港まで輸送する
- 航空機で使用する
この各段階で発生するCO2を合計し、従来の航空燃料を使った場合と比べて、どの程度の差があるかを確認します。
たとえば、製造工程で多くの化石由来エネルギーを使えば、燃料そのものが循環型の原料から作られていても、削減効果は小さくなる可能性があります。
反対に、製造に使うエネルギーにも配慮できれば、ライフサイクル全体の排出量をさらに抑えられることが期待されます。
SAFの価値は、飛行機が飛ぶ瞬間だけでなく、燃料ができる前から使い終わるまでを通して判断されるのです。
そのため、SAFによるCO2削減を理解するときは、「燃焼時に出るか出ないか」ではなく、「従来の燃料と比べて、全体でどれだけ排出を減らせるか」という視点を持つと分かりやすいでしょう。
SAFによるCO2削減率は原料や製造方法によって異なる

SAFによるCO2削減率は一律ではなく、使う原料や製造時のエネルギー源、輸送距離などによって大きく変わります。
条件が整ったSAFでは、従来のジェット燃料と比べてライフサイクル全体のCO2排出量を約60〜80%減らせる場合があります。
ただし、SAFを使えば排出量が必ず同じ割合で減るわけではなく、燃料ができるまでの工程を含めて確認することが大切です。
従来のジェット燃料より約60~80%削減できる場合がある
SAFは、従来の化石資源由来のジェット燃料と比べて、CO2排出量を大きく抑えられる可能性があります。
国際的な航空分野の資料などでは、原料や製造方法によっては、ライフサイクル全体で約60〜80%の削減が見込まれる例が示されています。
ここでいう削減率は、航空機のエンジンから出るCO2だけを比較した数字ではありません。
原料の調達、燃料の製造、輸送、使用までに関わる排出量を合計し、従来のジェット燃料と比べたときの差として示されます。
| 比較する項目 | 削減率に関わる主な内容 |
|---|---|
| 原料の準備 | 回収や栽培、前処理などに必要なエネルギー |
| 燃料の製造 | 工場で使う電力や熱の種類、製造効率 |
| 輸送 | 原料や完成した燃料を運ぶ距離と手段 |
| 燃料の使用 | 航空機で燃やした際に発生するCO2 |
つまり、同じ「SAF」という名称でも、作り方が異なれば環境面での評価も変わります。
削減率は燃料の種類そのものではなく、どのような工程を経て供給されたかによって決まると考えると分かりやすいでしょう。
製造や輸送に必要なエネルギーが削減率を左右する
SAFの削減率を左右する大きな要素のひとつが、製造工程で使う電力や熱です。
たとえば、製造設備を動かすために排出量の多いエネルギーを多く使うと、その分だけSAF全体のCO2削減効果は小さくなります。
反対に、排出量を抑えた電力や熱を活用し、製造工程の効率を高められれば、より高い削減率につながることが期待されます。
原料や完成した燃料を長距離輸送する場合も、輸送時の燃料消費を考慮する必要があります。
- 原料を集める際に必要なエネルギー
- 燃料へ加工する際の電力や熱
- 工場から空港まで運ぶ際の輸送
- 製造時に発生する副産物の扱い
こうした条件が異なるため、ある事例で示された削減率を、そのまますべてのSAFに当てはめることはできません。
数字を見る際は、「何を原料にし、どの地域で、どのようなエネルギーを使って製造したのか」という前提にも目を向けることが重要です。
航空会社や燃料供給事業者が削減量を示す場合も、一定の算定基準に沿って確認する取り組みが進められています。
SAFを使ってもCO2排出が完全にゼロになるわけではない
SAFを航空機で使用しても、飛行中にCO2がまったく出なくなるわけではありません。
SAFは多くの場合、既存のジェット燃料に近い性質を持つ燃料として使われるため、燃焼時には炭素を含む排出が生じます。
大切なのは、燃焼時の排出だけを切り取るのではなく、従来のジェット燃料を使う場合よりも全体としてどれだけ排出量を抑えられるかを見ることです。
SAFは「排出を完全になくす燃料」ではなく、「従来燃料より排出量を減らすことを目指す燃料」と理解すると、役割を正しく捉えやすくなります。
そのため、SAFの環境面での価値は、導入量を増やすことに加え、より排出の少ない製造方法を選び続けられるかどうかにも左右されます。
SAFは廃食油や植物、回収したCO2などから製造される

SAFは、使い終えた油、植物由来の資源、木くず、さらには工場などから回収したCO2を出発点として製造できます。
原料ごとに燃料へ変える工程は異なりますが、最終的には航空機で使える性質に整えられることが共通点です。
代表的な製造方法は、油を処理する方法、バイオマスをいったんガスにする方法、CO2と水素から合成する方法に分けて考えるとわかりやすいです。
| 主な原料 | 燃料に変える基本的な流れ | 特徴 |
|---|---|---|
| 廃食油・植物油・動物油脂 | 不純物を除き、水素を使って処理する | 既存技術を活用しやすい方法の一つ |
| 木くず・農業残渣 | ガス化し、燃料成分へ合成する | 固形のバイオマスを活用できる |
| 回収CO2・水素 | 合成ガスなどを経て燃料を作る | 電力由来の水素が重要になる |
廃食油や動植物油を処理して燃料にする方法
飲食店や家庭などから出る廃食油、植物油、動物由来の油脂は、SAFの原料として活用される代表例です。
これらの油には、航空燃料としてそのまま使うには適さない酸素分や不純物が含まれています。
そこで、まず水分や細かなごみを取り除き、その後に水素を使った処理を行って、燃料に必要な炭化水素へ近づけていきます。
処理後の成分は、さらに分けたり性質を整えたりして、航空燃料に求められる品質基準に合うよう調整されます。
使い終えた油を回収し、燃料としてもう一度活用する点は、この方法のイメージしやすいところです。
ただし、油なら何でも同じ工程で使えるわけではなく、原料の状態によって前処理の内容や必要な設備は変わります。
-
飲食店などから集めた使用済みの食用油。
-
菜種や大豆などを原料とする植物油。
-
食品加工などで生じる動物由来の油脂。
木くずや農業残渣などのバイオマスを燃料に変える方法
木材加工で出る木くずや、収穫後に残るわら・茎などの農業残渣も、SAFの原料候補になります。
こうした固形の原料は油とは性質が大きく異なるため、いったん高温でガスに変えてから燃料を合成する方法が用いられます。
原料をガス化すると、一酸化炭素や水素を主成分とする合成ガスが得られます。
この合成ガスを触媒の働きで反応させると、長さの異なる炭化水素が作られます。
その後、航空燃料に適した成分を取り出し、低温時の流れやすさなどを考慮して仕上げていきます。
木くずや農業残渣は形や水分量がそろっていないことも多いため、回収後に乾燥、破砕、選別といった準備を行うケースがあります。
固形原料を扱うため工程は複雑になりやすい一方で、油以外の幅広いバイオマスを原料候補にできることが特徴です。
回収したCO2と水素から合成燃料を作る方法
工場の排気や空気中から回収したCO2と、水素を組み合わせてSAFを作る方法も開発・導入が進められています。
この方法で作られる燃料は、一般に合成燃料の一種として扱われます。
まずCO2を回収し、水を電気で分解するなどして得た水素を用意します。
次に、CO2と水素を反応させて合成ガスなどの中間原料を作り、触媒を使って航空燃料に近い炭化水素へ変えていきます。
-
CO2を分離・回収する。
-
水素を製造して供給する。
-
CO2と水素から燃料のもとになる成分を合成する。
-
航空燃料として使える品質に調整する。
この製造方法では、水素をどのような電力で作るかが重要なポイントになります。
また、CO2の回収、反応、精製には設備とエネルギーが必要になるため、安定して製造するための仕組みづくりも求められます。
原料と製造技術の選択肢を増やせることは、航空分野でSAFを広げていくうえで大切な要素です。
原料の選び方もSAFの持続可能性を左右する

SAFは、原料が何であるかだけでなく、どこでどのように集め、製造までにどれだけの資源を使うかによって持続可能性が変わります。
環境への配慮を広げるには、栽培地の使い方や食料との関係、廃棄物を活用できるかといった点まで確認することが大切です。
原料を燃料に変える前段階にも目を向けることが、SAFを長く活用していくための条件になります。
植物の栽培や原料の収集で生じる排出量も計算対象になる
植物由来の原料を使う場合は、栽培、収穫、運搬、保管といった各段階で使うエネルギーも考慮されます。
たとえば、農地で使う肥料や農業機械の燃料、原料を工場へ運ぶ車両などからも排出が生じる可能性があります。
廃食油や木くずのような原料でも、回収場所が広く分散していれば、集めて運ぶための負担が大きくなることがあります。
そのため、原料の種類だけで判断するのではなく、原料の発生から燃料になるまでを一続きで見ることが重要です。
| 確認する段階 | 主な確認ポイント |
|---|---|
| 栽培・発生 | 肥料や水、農業機械などの利用状況 |
| 回収・保管 | 原料の分別方法、保管時の品質管理 |
| 輸送 | 回収地点から工場までの距離や輸送手段 |
| 加工前処理 | 乾燥、選別、洗浄などに必要なエネルギー |
地域でまとまって発生する原料を活用できれば、輸送距離を抑えやすくなる場合があります。
一方で、原料ごとに水分量や不純物の混ざり方が異なるため、安定した品質で集められる仕組みも欠かせません。
森林破壊や食料との競合を避けることが重要
燃料用の原料を増やすために新たな農地が必要になると、土地利用に影響が及ぶおそれがあります。
特に、森林破壊につながる土地転換や、食料生産に使われてきた農地との競合は、慎重に考えるべき課題です。
食用作物を原料にする場合でも、地域の食料供給や価格への影響をできるだけ小さくする視点が求められます。
燃料のために新しい資源負担を増やさないことが、原料選びの基本になります。
こうした背景から、使われていない土地で育てられる作物や、既存の生産活動から出る副産物などに注目が集まっています。
ただし、未利用とされる資源にも、土壌を守る役割や家畜の飼料など別の用途があるため、地域ごとの利用状況を確かめる必要があります。
廃棄物や残渣の活用には資源を有効利用できる利点がある
使用済みの油、食品加工で出る副産物、農業や林業で発生する残渣などは、すでに発生している資源を活用できる点が特徴です。
本来は処理や処分が必要になることもある資源を燃料の原料として活かせれば、資源を循環させる選択肢を増やせます。
とくに廃食油は、家庭や飲食店、食品工場などから回収する仕組みが整うほど、安定した活用につながりやすくなります。
農業残渣や林地に残る枝葉についても、必要な分を適切に回収することで、新たな原料候補になり得ます。
- すでに発生している資源を活用しやすい
- 食料生産用の土地を新たに広げずに済む可能性がある
- 地域内で回収と利用の流れを作れる場合がある
- 他の用途や自然環境への影響もあわせて確認できる
ただし、廃棄物や残渣であればすべてが無条件に適しているわけではありません。
回収量の安定性、衛生面や品質の管理、ほかの利用先とのバランスを確認しながら活用することが大切です。
SAFの原料は量を確保することだけでなく、将来にわたって無理なく集め続けられるかという視点で選ぶ必要があります。
SAFは既存の航空機や給油設備を活用しやすい

SAFは、定められた品質基準を満たしたうえで従来のジェット燃料と混合することで、現在運航している多くの航空機や空港の給油設備を活かしながら導入しやすい燃料です。
機体や空港の設備を一斉に入れ替える必要がないため、航空分野でCO2排出量の削減を進める現実的な選択肢のひとつとして注目されています。
ただし、どのSAFでもそのまま自由に使えるわけではなく、製造方法ごとに定められた規格や混合割合を守ることが前提です。
品質基準を満たしたSAFは従来燃料と混合して使用される
航空機に使われるSAFは、一般に従来の化石由来ジェット燃料と混合して利用されます。
これは、航空燃料には低温環境での流れやすさ、燃焼時の安定性、長期保管時の品質など、飛行の安全に関わる細かな条件が求められるためです。
製造されたSAFは、国際的に用いられる規格に沿って成分や性質を確認し、必要な基準を満たしたものだけが航空燃料として扱われます。
その後、従来燃料との混合を経て、最終的なジェット燃料の品質規格に適合した状態で空港へ供給されます。
SAFだけを特別な燃料として分けて給油するのではなく、規格に適合した航空燃料の一部として使うことが、現在の導入方法の基本です。
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| SAFの製造 | 原料や製造方法に応じて燃料成分をつくる |
| 品質の確認 | 航空燃料として必要な性質を満たしているか確認する |
| 従来燃料との混合 | 認められた割合で混合し、最終規格に適合させる |
| 空港での供給 | 通常のジェット燃料と同様の流れで航空機へ給油する |
航空機やエンジンを大幅に変更せず導入できる
規格に適合した混合燃料は、既存の航空機やジェットエンジンでの使用を想定して設計されています。
そのため、航空会社がSAFを利用するために、航空機をすべて新型へ置き換えたり、エンジンを大規模に改造したりする必要は基本的にありません。
空港側でも、燃料を保管するタンク、配管、給油車、搭乗橋付近の給油設備など、すでにある燃料供給の仕組みを活用しやすい点が大きな特徴です。
航空機は長期間にわたって運用されるため、設備更新のタイミングを待たずに取り入れられることは、導入を進めるうえで重要です。
利用の流れを簡潔にすると、次のようになります。
- 燃料供給事業者が規格に適合した混合燃料を用意する
- 空港の貯蔵・給油システムを通じて燃料を管理する
- 航空会社が通常の運航手順のなかで給油を受ける
- 航空機が従来と同じように運航する
もちろん、実際の導入時には空港ごとの受入体制や燃料の管理方法、関係事業者間の調整が必要になります。
それでも、燃料そのものを既存システムになじませやすい性質は、SAFの導入における大きな利点といえます。
混合割合や利用条件は燃料の規格によって決まる
SAFの混合割合は一律ではなく、製造技術や燃料成分の特徴に応じて規格で定められています。
現在認められている方法では、従来燃料に対して一定の上限まで混合する形が一般的であり、多くの経路で上限は50%とされています。
ただし、すべての製造方法で同じ割合が認められているわけではなく、より低い上限が設定される場合もあります。
これは、燃料に含まれる成分の違いによって、航空機で求められる性質を安定して確保するためです。
確認したいポイントは、主に次の3つです。
- どの製造方法によるSAFなのか
- その方法で認められている混合上限はいくつか
- 混合後の燃料が最終的な航空燃料規格を満たしているか
将来的には、より高い割合での利用やSAFのみでの運航に向けた研究・検討も進められています。
一方で現時点では、規格に基づいて品質を確かめながら混合し、安全性と互換性を保った状態で使うことが基本です。
SAFの環境効果はCO2以外の排出や飛行機雲も含めて考える必要がある

SAFの環境効果を見るときは、CO2だけでなく、エンジンから出るすすや窒素酸化物、空にできる飛行機雲への影響もあわせて考えることが大切です。
ただし、これらの変化はSAFの原料や成分、混合割合、エンジンの状態、飛行した場所の気象条件によって変わるため、すべての便で同じ結果になるとは限りません。
CO2のように比較的整理しやすい指標とは異なり、上空で起きる現象には不確実な部分もあり、継続的な測定と研究が進められています。
| 項目 | SAFで注目される点 | 影響を左右する主な要素 |
|---|---|---|
| すす | 燃料の性質によって排出が少なくなる可能性がある | 燃料成分、混合割合、エンジンの燃焼状態 |
| 窒素酸化物 | 大幅な低下を一律には見込みにくい | 燃焼温度、エンジン設計、運航条件 |
| 飛行機雲 | すすの変化を通じて影響する可能性が研究されている | 気温、湿度、高度、航路、燃料の性質 |
燃料の性質によってすすの排出低減が期待される
航空機のエンジンでは、燃料が燃える過程で微小な粒子であるすすが発生します。
SAFには、従来の航空燃料と比べて硫黄分や芳香族成分が少ない傾向を持つものがあり、こうした性質によりすすの排出が抑えられる可能性があります。
実際の飛行試験やエンジン試験では、SAFの混合割合が高いほど、すす粒子の数が減少する傾向を示した報告もあります。
すすは排気中の粒子そのものとして注目されるだけでなく、後述する飛行機雲ができる過程にも関係するため、SAFの環境面を考えるうえで重要な要素です。
一方で、すすの減り方はどのSAFでも同じではなく、燃料の製造経路や従来燃料との配合によって差が出ます。
「SAFなら必ずすすがゼロになる」という意味ではないため、燃料ごとの成分や試験結果を確認する姿勢が必要です。
窒素酸化物はSAFだけで大幅に減るとは限らない
窒素酸化物は、主にエンジン内部の高温な燃焼条件で、空気中の窒素と酸素が反応して生じる排出物です。
そのため、燃料をSAFに替えることだけで窒素酸化物が大きく減るとは、一律にはいえません。
窒素酸化物の排出量には、燃料の成分に加えて、エンジンの燃焼器の設計、推力のかけ方、飛行高度、整備状態なども関わります。
SAFの種類によっては燃焼の特性が変わり、排出傾向に違いが現れる場合もあります。
ただし、その差はすすの場合よりも単純に判断しにくく、エンジンごとの試験や実際の運航データで確認することが重要です。
航空分野では、燃料の見直しだけに頼るのではなく、エンジン技術の改善や運航方法の工夫なども組み合わせながら、排出全体を抑える取り組みが進められています。
飛行機雲への影響は研究と検証が進められている
飛行機雲は、航空機の排気に含まれる水蒸気などが、上空の低温で湿った空気の中で氷の粒になって見える現象です。
短時間で消えるものもあれば、気象条件によっては長く残って広がるものもあります。
飛行機雲が長く残るかどうかは、燃料だけでは決まらず、特に上空の気温と湿度に大きく左右されます。
ただし、すす粒子は氷の粒ができる際のきっかけの一つになるため、SAFの利用ですすが減れば、飛行機雲の性質に変化が起こる可能性があります。
この点は期待される効果の一つですが、飛行機雲の発生や持続には多くの条件が重なるため、SAFを使えば飛行機雲が必ず減る、とまではいえません。
現在は、実際の飛行で排気や飛行機雲を観測したり、気象データを使って影響を予測したりする検証が進んでいます。
今後は、SAFの利用に加え、飛行機雲ができやすい空域を可能な範囲で避ける運航方法なども含めて、航空が気候に与える影響を小さくする工夫が重要になりそうです。
電動化や水素化が難しい中長距離航空でSAFが重視されている

中長距離を飛ぶ航空機では、長い距離を飛べるだけのエネルギーを、できるだけ軽く積む必要があります。
そのため、電池や水素を活用する方法だけで大型旅客機をすぐに置き換えるのは簡単ではなく、現在の航空燃料に近い性質で使えるSAFが重要な選択肢として注目されています。
電動化や水素化は将来の航空を支える技術として期待される一方、機体の大きさや飛行距離、空港の設備などに応じて、向いている場面が異なります。
航空機には軽くてエネルギー密度の高い燃料が必要
飛行機は離陸時に大きな力が必要であり、乗客や貨物に加えて、目的地まで飛ぶためのエネルギーも機内に積み込まなければなりません。
しかも、エネルギーを多く積むために重量が増えすぎると、その重さを運ぶためにさらに多くのエネルギーが必要になります。
航空機では、限られた重量とスペースの中にどれだけ多くのエネルギーを収められるかを示すエネルギー密度が特に大切です。
従来のジェット燃料は液体で扱いやすく、重量あたり・体積あたりともに多くのエネルギーを持つため、長距離飛行に適しています。
SAFも一定の規格を満たしたうえで従来のジェット燃料と混合して使われるため、航空機に求められる軽さと航続距離を保ちやすい点が大きな特徴です。
| 方式 | 主な強み | 中長距離で考えられる課題 |
|---|---|---|
| SAF | 液体燃料として積載しやすく、航続距離を確保しやすい | 十分な生産量を安定して確保する必要がある |
| 電池 | 飛行中に排気を出さず、機構を比較的簡素にできる可能性がある | 電池の重量と充電時間が長距離化の壁になりやすい |
| 水素 | 使い方によっては飛行中の二酸化炭素排出を抑えられる可能性がある | 燃料タンク、機体設計、供給設備を大きく見直す必要がある |
電動航空機は電池の重量が長距離化の課題になる
電気で飛ぶ航空機は、モーターを使って推進力を得る仕組みで、短い区間や小型機を中心に開発と実証が進められています。
ただし、電池は使うほど蓄えた電気が減る一方で、飛行後も電池そのものの重さは変わりません。
燃料を消費するにつれて機体が軽くなる従来の航空機と比べると、長距離を飛ぶために大容量の電池を積むほど離陸時の重量が重くなりやすいといえます。
また、長距離路線では多くの乗客と荷物を運びながら、天候の変化や迂回に備えた余裕も必要です。
このため、現時点では大型機で長距離を飛ぶほど、電池だけで必要なエネルギーを積む難しさが大きくなると考えられています。
電池技術が進歩すれば活用できる範囲は広がる可能性がありますが、近距離から中距離の移動と、大陸間を結ぶような長距離移動では、導入までの道のりが同じとは限りません。
- 小型機・短距離路線:電動化の検討が進められやすい
- 中型機・中距離路線:電池の性能向上や別の動力との組み合わせが課題になる
- 大型機・長距離路線:重量と必要エネルギーが大きく、液体燃料の役割が残りやすい
水素航空機は機体や空港設備の大きな変更が必要になる
水素を航空に活用する方法には、水素を燃やして推進力を得る方法や、燃料電池で電気をつくってモーターを動かす方法などがあります。
水素は重量あたりでは多くのエネルギーを持つ一方、航空機に積み込むには低温の液体にしたり、高圧で貯蔵したりするための工夫が必要です。
特に液体水素は体積が大きくなりやすく、従来の燃料タンクと同じ感覚では搭載しにくいため、胴体や翼を含めた機体設計の見直しにつながる可能性があります。
空港側でも、水素を製造・運搬・貯蔵し、安全に航空機へ供給する設備や運用の整備が求められます。
つまり、水素航空機を広く運航するには航空会社だけでなく、空港、燃料供給事業者、機体メーカーなどが足並みをそろえる必要があります。
こうした変化には時間がかかるため、すでに運航している中長距離航空機の対策を考えるうえでは、SAFが現実的に取り組みやすい手段の一つになります。
将来は、短距離では電動化や水素化、中長距離ではSAFの活用というように、路線や機体の特徴に合わせて複数の方法を使い分けていくことが大切になりそうです。
SAFの普及には価格・生産量・原料確保の課題が残る

SAFは航空分野のCO2削減に役立つ選択肢として期待されていますが、価格の高さ、生産量の少なさ、安定した原料確保という課題が残っています。
導入を広げるには、燃料をつくる設備を増やすだけでなく、原料の回収から空港への供給までをつなぐ仕組みづくりが必要です。
SAFを継続的に使える環境を整えることが、航空会社や利用者にとっても大切なポイントになります。
複雑な製造工程と設備投資が価格を押し上げる
SAFは、原料を集めて不純物を取り除き、航空燃料として使える品質に加工するまでに、複数の工程を必要とします。
原料の種類によって適した製造方法が異なるため、安定した品質を保つための管理や検査も欠かせません。
こうした工程に加えて、大規模な製造設備の建設や運転には多くの費用がかかるため、従来の航空燃料より価格が高くなりやすい傾向があります。
特に生産規模がまだ十分に大きくない段階では、設備費用を多くの燃料に分散しにくいことも価格面の負担につながります。
| 価格に影響する要素 | 負担が大きくなりやすい理由 |
|---|---|
| 原料の回収・運搬 | 各地に分散した原料を集め、品質を確認する必要があるためです。 |
| 製造設備 | 専用の設備や品質管理の仕組みを整えるための投資が必要になるためです。 |
| 生産規模 | 生産量が限られるうちは、設備や運用にかかる費用を抑えにくいためです。 |
| 認証・管理 | 持続可能性や燃料品質を確認する手続きが求められるためです。 |
ただし、生産設備が増え、製造技術が進み、安定した需要が見込めるようになれば、将来的にコストを抑えられる可能性があります。
価格だけでなく、長期的に安定して供給できるかという視点で投資を進めることが重要です。
利用できる原料と生産設備がまだ限られている
SAFの生産を増やそうとしても、すぐに原料を無制限に集められるわけではありません。
利用できる原料には回収量や地域差があり、ほかの用途ですでに使われているものもあるためです。
そのため、一つの原料だけに頼るのではなく、地域で確保しやすい資源や新しい製造技術を組み合わせる考え方が求められます。
また、SAFを製造できる設備は世界的に増えつつあるものの、航空燃料全体の需要に比べると十分な規模とは言いにくい状況です。
設備の建設には時間がかかり、原料の調達先や製品の販売先をあらかじめ見通す必要もあります。
- 原料を継続的に回収できる体制をつくること
- 原料ごとに適した製造技術を選べるようにすること
- 品質を保ちながら生産量を増やせる設備を整えること
- 特定の地域や原料に供給が偏りすぎないようにすること
原料の量だけを増やすのではなく、環境や地域社会への影響にも配慮しながら調達を続けることが、SAFの信頼性につながります。
つまり、「つくれる燃料」から「無理なく使い続けられる燃料」へ育てていく視点が必要になります。
供給網の整備と技術開発が導入拡大の鍵になる
SAFを多くの便で使うには、製造工場だけでなく、保管、輸送、空港での供給までをスムーズにつなげなければなりません。
工場があっても、空港まで安定して運べなければ、必要なタイミングで航空会社が利用しにくくなります。
既存の燃料供給網を活用できる部分を見極めながら、地域ごとの事情に合った物流体制を整えることが大切です。
さらに、原料からより効率よく燃料をつくる技術や、回収資源を活かす技術が進めば、生産量の拡大とコスト低減の両方に近づきやすくなります。
- 原料の回収・集荷を安定させる
- 製造設備への投資と技術開発を進める
- 品質確認や持続可能性を確認する仕組みを整える
- 空港までの輸送・保管・供給を円滑にする
- 航空会社、空港、燃料事業者、行政などが連携する
SAFの普及は、どこか一つの企業や業界だけで完結する取り組みではありません。
燃料をつくる側、使う側、運ぶ側が長期的な見通しを共有することで、新しい設備への投資もしやすくなります。
課題は少なくありませんが、供給網と技術の両面が整っていけば、SAFを選べる路線や便を少しずつ増やしていく道筋が見えてきます。
まとめ
この記事のポイントをまとめます。
- SAFは、大気中にある炭素を活用することで、燃料の一生を通じたCO2排出量を抑えやすい航空燃料です。
- 飛行中にCO2が出ないわけではなく、原料調達から製造・輸送・燃焼までを含めて評価することが大切です。
- CO2削減の程度は、廃食油や植物、回収CO2などの原料や製造方法によって異なります。
- 条件によっては、従来のジェット燃料よりライフサイクル全体のCO2排出量を約60〜80%減らせる場合があります。
- 原料の栽培方法、回収方法、輸送距離なども、SAFの持続可能性に関わります。
- SAFは品質基準や混合割合を守ることで、既存の航空機や空港の給油設備を活用しやすい点が特徴です。
- 環境への影響を見る際は、CO2だけでなく、すすや飛行機雲などについても考える必要があります。
- 中長距離航空では電池や水素だけでの置き換えが難しいため、SAFが現実的な選択肢として重視されています。
- 普及には価格、生産量、原料の安定確保といった課題があり、供給の仕組みづくりも欠かせません。
SAFは、飛行機を利用しながらCO2排出量を抑えるための大切な選択肢のひとつです。
ただし、どの原料から、どのようなエネルギーで作られたのかによって環境への影響は変わるため、名称だけで判断せず、ライフサイクル全体を見る視点が役立ちます。
航空会社の取り組みや利用する便の情報に少し目を向けるだけでも、航空の未来を考えるきっかけになります。
できることから関心を持ち、より納得できる移動の選択につなげてみてください。

