ピサの斜塔の現在の傾きは何度?約4度まで戻った理由と倒れない仕組み
イタリアを代表する観光名所「ピサの斜塔」。
写真を見るとかなり斜めに立っていますが、
「現在は何度くらい傾いているの?」
「今でも傾き続けているの?」
「どうして倒れないの?」
と疑問に思ったことはないでしょうか。
結論からいうと、ピサ市の世界遺産紹介ページでは、現在のピサの斜塔は垂直方向から約3.9度傾いているとされています。つまり、およそ4度です。
数字だけを見ると「たった4度?」と感じるかもしれません。しかし、高さ約56メートル級の巨大な石造建築が約4度傾いているため、実際に見るとその傾きはかなり大きく感じられます。
しかも、以前はさらに傾いていました。
1990年ごろには約5.5度に達し、倒壊が懸念されたことから一般公開が中止されています。その後、大規模な安定化工事が行われ、現在の状態まで傾きが戻されました。
この記事では、ピサの斜塔の現在の傾きから、なぜ傾いたのか、なぜ倒れないのか、どのように修復したのか、さらに観光やガリレオにまつわる雑学までわかりやすく紹介します。
ピサの斜塔の現在の傾きはどのくらい?
現在の傾斜角は約3.9度
現在のピサの斜塔は、垂直方向に対して約3.9度傾いているとピサ市の世界遺産紹介ページに記載されています。
一般的には「約4度」と紹介されることが多いため、
現在の傾き=約3.9度(およそ4度)
と覚えておけばよいでしょう。
なお、ピサの斜塔を管理するOpera della Primaziale Pisanaの別の技術紹介ページには「約5.115度」という異なる数値も掲載されています。公式情報同士でも表記に差があるため、本記事ではピサ市が現在の世界遺産紹介ページで示している「3.9度」を基準にしています。
高さ約56メートルの塔では「約4度」でもかなり大きい
4度という角度だけを見ると、小さく感じるかもしれません。
しかし、ピサの斜塔は高さ約56メートルにもなる巨大な建築物です。ピサ市も塔を高さ約56メートル、重量1万4,453トンと紹介しています。
単純な直線として計算すると、3.9度の傾きは高さ10メートルにつき約68センチ横へずれる角度です。
そのため、高さ56メートル級ともなれば横方向のずれは数メートル規模になります。
小さな置物なら気づかないほどの角度でも、巨大な塔になると肉眼ではっきりわかるほどの傾きになるのです。
最も傾いていた時期は約5.5度
現在は約3.9度まで安定化していますが、1990年ごろには傾きが約5.5度にまで達していました。
当時は塔上部のずれも5メートル前後に達し、安定性が問題視されるほど危険な状態でした。技術資料でも、1990年時点で南側への傾斜が約5.5度、塔上部のずれが約5.5メートルに近かったとされています。
そのため1990年、ピサの斜塔は一般公開を停止。
その後約11年間にわたり、大規模な安定化工事が行われました。
ピサの斜塔の傾きと歴史を年表で比較
| 時期 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1173年 | ピサ大聖堂の鐘楼として建設開始 |
| 建設開始から約5年後 | 3層付近で地盤沈下が起こり、傾き始める |
| 13~14世紀 | 工事を再開しながら上層部分で傾きを補正 |
| 14世紀後半 | 鐘楼部分が完成 |
| 1990年 | 傾きが約5.5度となり、一般公開を停止 |
| 1990~2001年 | 大規模な安定化工事 |
| 2001年 | 再び一般公開 |
| 現在 | ピサ市の資料では約3.9度 |
建設開始からわずか数年で傾き始め、その後800年以上にわたって人々が塔の傾きと向き合ってきたことがわかります。
そもそもピサの斜塔とはどんな建物?
ピサ大聖堂のために造られた鐘楼
ピサの斜塔は、最初から観光用の塔として造られたわけではありません。
正式には、ピサ大聖堂に付属する鐘楼(カンパニーレ)です。
現在では「傾いた塔」という部分ばかりが注目されますが、本来は鐘を鳴らして時を知らせたり、宗教行事で使用したりする役割を持っていました。
塔には7つの鐘があり、宗教施設としてピサの町の時間と信仰を支えてきました。
ロマネスク建築を代表する美しい塔
建物は円筒形で、外側には何層にもわたってアーチと列柱が並んでいます。
白い大理石と規則的に続くアーチが生み出す外観は美しく、もしまったく傾いていなかったとしても、十分に価値のある歴史的建築物です。
また、建設途中ですでに傾いていたため、後世の建築家たちは上層部分を調整しながら建設しました。
そのため塔を詳しく見ると、一本の直線として単純に傾いているのではなく、わずかに曲がったような形になっています。
「奇跡の広場」の一部として世界遺産に登録
ピサの斜塔が建っている場所は「ピサのドゥオモ広場」、通称「奇跡の広場」と呼ばれています。
ここには大聖堂、洗礼堂、鐘楼であるピサの斜塔、墓地であるカンポサントが集まっています。
これらは中世建築を代表する建築群として高く評価され、1987年にユネスコ世界文化遺産へ登録されました。
つまり、ピサの斜塔だけが単独で世界遺産になっているのではなく、広場全体を構成する重要な建築物のひとつなのです。
ピサの斜塔はなぜ傾いているの?
最大の原因は柔らかく不安定な地盤
ピサの斜塔が傾いた最大の理由は、建物の下にある地盤が柔らかかったことです。
塔の周辺には粘土や砂などを含む軟弱な地層があります。
さらにピサ市によると、かつてこの付近にはアウセル川の流路があったことも、地盤を不安定にした要因とされています。
その上に1万4,000トンを超える巨大な石造建築を建てたため、地盤が均等に沈まず、片側だけがより深く沈み込む「不同沈下」が発生しました。
これが傾きの始まりです。
建設開始から約5年で傾き始めていた
驚くことに、ピサの斜塔は完成してから傾いたわけではありません。
1173年に建設が始まり、約5年後、まだ3層付近までしか造られていない段階で地盤沈下が起こりました。
つまり、ピサの斜塔は約800年前からずっと「傾きながら造られていた塔」なのです。
現在なら建築前に詳しい地盤調査を行い、杭や地盤改良などによって対策できます。
しかし12世紀には、現代のような地盤工学は存在していませんでした。
建築家は上層部分で傾きを補正した
工事を再開した建築家たちは、塔が傾いていることに気づいていました。
そこで上層部分では左右の高さを調整し、傾きを打ち消そうとしています。
しかし地盤そのものの問題を解決できたわけではないため、塔を完全に垂直へ戻すことはできませんでした。
その結果、「傾いているだけでなく、わずかに湾曲している」という現在の独特な姿が生まれたのです。
ピサの斜塔はいつから傾いている?完成までの歴史
ピサの斜塔の建設が始まったのは1173年です。
ところが、前述したように建設開始から約5年後、3層付近で地盤沈下が発生し工事は中断しました。
その後、工事は長い中断期間を挟みながら再開されます。
約1世紀後には建築家ジョヴァンニ・ディ・シモーネが上層部分を建設しながら傾きを補正し、14世紀後半にはトンマーゾ・ピサーノによって鐘楼部分が完成しました。
着工から完成までには約200年もの時間がかかったことになります。
結果としてピサの斜塔は、「建築が失敗して傾いた塔」というより、傾きという問題を抱えながら何世代もの建築家が完成させた塔と考えたほうが実態に近いでしょう。
なぜ倒れない?ピサの斜塔が立ち続ける科学的な理由
傾いているだけですぐ倒れるわけではない
建物が傾いているからといって、必ずしもすぐに倒れるわけではありません。
重要なのは、建物の重量や重心、基礎、地盤がどのように力を支えているかです。
ただし1990年ごろのピサの斜塔は、傾きの増加によって安全性への懸念が大きくなっていました。
そのため「昔から倒れなかったから安全だった」というわけではありません。
現在も残っているのは、塔そのものの構造だけでなく、その後に行われた大規模な安定化工事の成果が大きいのです。
柔らかい地盤は地震に対して意外な効果もあった
ピサの斜塔を傾けた軟弱地盤は、地震に対しては意外な働きをしていた可能性があります。
2018年に発表された研究では、塔と柔らかい地盤との「動的な土壌・構造物相互作用」が、過去の地震で塔が倒壊しなかったことに重要な役割を果たしたとされています。
簡単にいうと、塔と地盤が別々に揺れるのではなく、互いに影響し合うことで塔の振動特性が変化し、地震動と強く共振しにくくなったということです。
つまり、塔を傾けた地盤が、別の場面では塔を地震から守る方向に働いた可能性があるという、とても興味深い現象なのです。
倒壊寸前だったピサの斜塔をどうやって修復した?
1990年に一般公開を停止
長い年月をかけてピサの斜塔の傾きは少しずつ増えていき、20世紀後半には安全性が大きな問題になりました。
1990年には傾斜が約5.5度に達し、塔は一般公開を停止します。
しかし、ここで大きな問題がありました。
単純に塔を垂直に戻してしまえば、ピサの斜塔最大の特徴である「傾き」がなくなってしまいます。
そこで専門家たちが目指したのは、
「傾きを完全になくすのではなく、歴史的な姿を残したまま安全にする」
という非常に難しい方法でした。
鉛の重りと鋼製ケーブルで一時的に安定させた
本格的な工事に入る前には、塔が突然動かないよう慎重な対策が取られました。
ピサ市によると、まず塔の北側に鉛製のカウンターウェイトを置き、さらに鋼製ケーブルなどを利用して安定させています。
いきなり塔そのものを動かすのではなく、安全を確保しながら少しずつ作業を進めたのです。
北側の土を少しずつ取り除いた
安定化工事で特に重要だったのが「土壌抽出」と呼ばれる方法です。
塔は南方向へ傾いていたため、反対側である北側の基礎下から少量ずつ土を取り除きました。
すると北側がほんの少し沈み込み、塔自身の巨大な重さによって傾きが徐々に戻っていきます。
巨大な塔をクレーンなどで無理に起こすのではなく、地盤を調整することで塔自身に姿勢を変えてもらうという非常に繊細な工法でした。
修復によって傾きは数十センチ戻った
ピサ市は、1990年から2001年までの安定化工事によって傾きが約45センチ減少したと説明しています。
一方、英国土木学会は工事による変化を38センチとしています。
測定位置などによる表記差はありますが、いずれにしても塔全体を垂直に戻したわけではなく、数十センチだけ慎重に傾きを戻して安定させたことがポイントです。
英国土木学会では、安定化によって塔の将来は少なくとも約200年は確保されたとする専門家の見解も紹介されています。
角度約4度って実際どれくらい?
数字以上に傾いて見える
3.9度という数字だけを聞くと、それほど大きく感じません。
しかし実際には、高さ10メートルにつき約68センチ横へずれる角度です。
高さが数十メートルになれば、その差は数メートル規模になります。
そのため広場でピサの斜塔を目の前にすると、
「写真で見るより傾いている」
と感じても不思議ではありません。
また、塔そのものが建築途中の補正によってわずかに湾曲しているため、単純な一本の棒を斜めにしたような形ではないことも、独特な見た目につながっています。
塔の中では傾きを身体で感じられる
現在は塔の内部へ入り、上まで登ることができます。
らせん状の階段を歩いていると、塔そのものが傾いているため、場所によって身体が傾くような感覚を覚えることがあります。
地上から眺めるだけでなく、「傾いている巨大建築の内部を実際に歩ける」という点も、ピサの斜塔ならではの体験です。
ピサの斜塔は現在も登れる?観光するときのポイント
現在も頂上まで登ることができる
ピサの斜塔は、2026年現在も一般公開されており、内部へ入って上まで登ることができます。
入場は時間指定制で、人数に限りがあります。
「完全予約制で現地購入できない」というわけではなく、公式サイトによれば空きがあれば現地のチケット売り場でも購入できます。ただし人気の時間帯は売り切れる可能性があるため、予定が決まっている場合は事前予約のほうが安心です。
2026年の入場条件
2026年現在、塔単体の公式料金は20ユーロで、割引料金は設定されていません。
安全上の理由から、その年の年末までに8歳にならない子どもは塔へ入場できません。また18歳未満は大人の同伴が必要です。
塔の見学時間は約30分が目安で、大きなバッグや荷物は事前に無料のクロークへ預けます。
塔内は徒歩で登るため、歩きやすい靴を用意しておくと安心です。公式案内でも、床が不均一で滑りやすいことや、循環器系・運動機能に問題がある人には登塔を勧めていないことが案内されています。
料金や営業時間は変更される可能性があるため、実際に訪問するときは公式サイトで最新情報を確認してください。
大聖堂や洗礼堂も一緒に見たい
ピサを訪れるなら、斜塔だけを見て帰るのは少しもったいありません。
広場にはピサ大聖堂、洗礼堂、カンポサント、博物館などが集まっています。
特に洗礼堂は独特の音響でも知られており、内部では声が長く響く不思議な体験ができます。公式サイトによると、係員による音響の実演も行われています。
「ピサの斜塔を見る」というより、「奇跡の広場全体を見学する」と考えたほうが、この世界遺産の魅力をより深く楽しめるでしょう。
ガリレオは本当にピサの斜塔から鉄球を落とした?
ピサの斜塔にまつわる科学史上もっとも有名な話のひとつが、ガリレオ・ガリレイの落下実験です。
「重い球と軽い球を塔の上から同時に落とし、物体の落下速度についてアリストテレスの考えを覆した」
という話を聞いたことがある人も多いでしょう。
しかし、この実験が実際にピサの斜塔で行われたかどうかは確定していません。
有名な話だが史実としては議論がある
興味深いことに、公式資料の間でも説明が分かれています。
ユネスコの世界遺産ページでは、ガリレオが鐘楼の上から実験を行ったと紹介されています。
一方、現在のピサ市観光ページでは「多くの教科書に書かれているのとは異なり、ガリレオは有名な塔から落下実験を行っていない」と説明しています。
科学史研究でも、実際に行われたかどうかは明確ではありません。
この逸話を記した有名な記録は、ガリレオ本人ではなく弟子のヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニが後年に書いたものです。現代の研究でも、実験が本当に行われたかについては議論が続いています。
そのため、
「ガリレオがピサの斜塔から球を落とした」という話は非常に有名だが、確実な史実として断定することはできない
という理解がもっとも適切でしょう。
これも、ピサの斜塔をめぐる面白い科学雑学のひとつです。
ピサの斜塔より傾いている塔は世界にある?
「世界一傾いている塔=ピサの斜塔」と思われがちですが、実はそうではありません。
ドイツには、地盤の影響によってピサ以上に傾いた中世の塔があります。
また、最初から意図的に傾けて建てられた現代建築まで含めると、ピサよりはるかに大きな角度を持つ建物も存在します。
英国土木学会は、ドイツのズールフーゼンやバート・フランケンハウゼンの中世塔がピサより大きく自然傾斜していることや、意図的に傾斜させた建築にはさらに大きなものがあることを紹介しています。
それでもピサの斜塔が世界的に有名なのは、単に「傾きが大きいから」ではありません。
中世から続く歴史、美しいロマネスク建築、世界遺産としての価値、倒壊の危機を乗り越えた修復技術、そして誰でも一目でわかる独特の姿。
これらがすべて組み合わさっているからこそ、ピサの斜塔は世界を代表する建築物になったのでしょう。
まとめ|ピサの斜塔は現在約4度傾いている
ピサの斜塔の現在の傾きは、ピサ市の世界遺産紹介ページでは約3.9度、およそ4度です。
建設が始まったのは1173年で、わずか数年後には軟弱な地盤の影響によって傾き始めました。
その後も傾斜は長い年月をかけて進み、1990年ごろには約5.5度に達したことから一般公開を停止。
鉛のカウンターウェイトや鋼製ケーブルによる安定化、そして基礎の北側から少量ずつ土を取り除く「土壌抽出」によって傾きを数十センチ戻し、2001年には再び一般公開されました。
そして現在は、傾いた姿を残したまま世界中の観光客が登れる歴史的建造物となっています。
ピサの斜塔のおもしろさは、「建築に失敗したから傾いた」という一言だけでは説明できません。
軟弱地盤、800年以上にわたる建築の歴史、地震と地盤の意外な関係、現代土木技術による修復、そしてガリレオをめぐる科学史まで、多くの物語が詰まっています。
倒れそうなのに倒れない。しかも、その傾きそのものが世界的な価値になっている。
そこに、ピサの斜塔が800年以上にわたって人々を惹きつけ続ける最大の魅力があるのでしょう。

